断熱材は何を使っていますか?

「断熱材は何を使っていますか」

お客様とお話する中で、多く受ける質問のひとつです。
“ZEH”や”カーボンニュートラル”という言葉が注目されるようになってから、さらに増えたように思います。
住宅を検討する際も省エネに対する意識が増し、環境にとって良い傾向にあると思います。

↑カーボンニュートラル 出典:環境省HP

さて、冒頭の質問に戻ります。
私たちサン工房では「断熱材はコレ」と決めていません。
繊維系、発泡系、自然素材、それぞれを使い分けています。
製品それぞれに断熱性能が数値化されていますが、数字が良いもの選べば良いという訳ではありません。
施工するのは人ですので、人の手で扱い易い物の方がきちんと施工でき、カタログ上の数値を発揮します。
施工精度が悪いと本来の性能の50%以下の効果しか発揮しない、というデータもあります。

↑断熱材の施工とその効果 出典:住宅省エネルギー技術講習テキスト

では、断熱材を適材適所に使用すれば家の中は快適なのか?

答えは「はい」とは言いきれません。
断熱材は建物を構成する要素のひとつであり、さらには建物の断熱性能を決定する要素のひとつに過ぎません。
断熱材を施工する箇所は外気に接する部分(基礎or床、壁、天井)ですが、窓(ガラス面)には施工することができません。
ですので、窓に着目することも重要です。
事実、大部分の熱の移動が窓で発生しています。
(夏は74%、冬は50%というデータもあります。)

↑窓からの熱の出入り 出典:YKKAP HP

では、窓の無い家をつくればよいのか?

答えは当然「いいえ」です。
身近な例として、水筒をイメージすると分かりやすいと思います。
水筒は長時間の保温、保冷ができ、性能には優れますが、「家」と考えると暗く息苦しさを感じると思います。
反対に、ガラス張りの家はペットボトルに例えられます。こちらも不快な時間があるのは容易に想像できますね。
このように、人が気持ちよく生活するためには窓(明かりや視線の抜け等)が必要です。

↑ブログ「過分な設計

窓は枠とガラスで構成されますが、枠材には種類があります。
代表的なものに「アルミ、樹脂、木」があります。
それぞれの素材には熱伝導率があり「熱の伝わりやすさ」が異なります。

ガラスについて、建築に使われるものの組成にはあまり種類はありませんが、
ガラスの厚さ、ガラスの枚数、空気層の厚さ、日射遮蔽被膜(Low-E金属膜)等、
ガラスの断熱性能を決定づける要素があります。

↑窓の断熱製能 出典:YKKAP HP

このように建物の断熱性能を評価するには、主に断熱材と窓の仕様が問われます。
現在はこれが「UA値」として表現されます。
(数値が低い方が断熱性能が高い。また計算上の値のため、断熱材の性能が100%発揮された場合の値です。)

UA値が小さいほど快適なのは言うまでもありませんが、ここで評価できてない要素もあります。

例えば「庇」。
古い日本家屋は軒が深く、軒下空間があるイメージがあるのではないかと思います。
屋根や庇は日差しを遮り、窓から入る熱の量を軽減します。
庇が無い場所はスダレを設けるのも良いでしょう。
庇の出しすぎも良くありません。冬は低い角度で入る太陽光を入れ、暖をとりたいものです。

↑庇と軒下空間

また「すき間風」。
断熱性能(UA値)が良くても、すき間風が多ければ簡単に快適性を損ないます。
すき間風の指標は専門的には「気密性能(C値)」として定義され、それを評価するために建物それぞれで気密測定という試験を行います。

↑気密測定の様子

・・・

冒頭の質問からだいぶ話が逸れてしまいました。
性能や数値にこだわって設計することは良いことだと思います。
皆さん口を揃えて「夏涼しく、冬暖かい家で暮らしたい」と仰います。

覚えておきたいのは「断熱」とは「(外の)熱を断つ」ことで、それ自体に温める(冷やす)能力は無いということ。
また、住宅は24時間換気していますので、断熱に関係なく外の空気を取り込んでいます。
(お湯の入った水筒に少しずつ水を注ぎ続けているイメージ)
新鮮な空気を取り入れないと、ヒトは体調を崩してしまうのです。

設計で大切なことは、太陽光や風を取り入れ(遮り)心地良い室内環境をつくることです。
どれだけ自然エネルギーに頼ることができるか、それは設計の質によります。
その手法は、古くからの日本建築が教えてくれます。

↑慈光院

また自然エネルギーに頼れない天気や時間帯、季節は文明の利器に頼ることも必要です。
そして、断熱以外のことも忘れてはなりません。

高温多湿な環境の日本で、何十年、何百年と暮らす住まいですから、
材料の耐久性、防火性、防音性、防カビ性、防虫性等も侮っていはいけません。

・・・

「日本の家をつくる。」

私たちのつくる建築は技術の進歩とともに変化しますが、その根幹が揺らぐことはありません。

増田光

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