居には住まい手の人柄が表れる

夏期休暇中に用事で訪れた大分。
せっかくなので途中下車して、から揚げで有名な中津市を散策。
駅を出て、そこが福沢諭吉の故郷であることを初めて知りました。

福沢諭吉の旧宅や記念館、中津から揚げの話しもありますが、
今回は中津で一番印象に残った「大江医家資料館」について書きます。

「大江医家資料館」は、中津市の散策中に偶然見つけました。
全く何も知らず、良い感じの建物だなというだけで入りましたが、
展示されている医学関連の資料はとても貴重なモノが多く、
内容の濃い資料館でした。
教科書に出ていた昔の医学書「ターヘル・アナトミア」や
それを前野良沢と杉田玄白が訳した「解体新書」の実物も展示されていました。

ただ、私の興味は断然建物の方でして
展示資料や案内の方の説明はそこそこに、
明治維新の少し前に建てられたこの医家の造りをじっくりと見させて頂きました。

この建物の主の大江玄仙は中津藩の藩医で、
参勤交代時にはお殿様に同行するような藩で最も偉いお医者様でした。
しかし、そんな偉い方の病院兼住まいとして建てられたこの医家は
とても質素なモノでした。

質素と言っても、詫び錆びのような質素さではなく、簡素というか
華美な装飾がないというか、不要なモノ、権威を示すようなモノ
治療に必要ないモノは要らない、そんな質素さでした。

お座敷こそ、それなりの造りでしたが、
奥の庭には、薬草の畑もあり、これが医家なんだなぁと感心しました。
まだまだ分からないことだらけだった頃の医者、
直せない病気も沢山あり、たくさんの悔しい経験がこの場所にあったことを想うと
静かで簡素なこの医家が、それを受け止めるにふさわしい建物であり、
病気と闘い、医学の発展に努めた住まい手の人柄が表れた建物だと感じました。

設計 大西等