ランニング・ホームラン
最近、足元に気を取られ、自身の設計について前を向けない場面を感じ、一旦停止して積ん読してあった本を手に取りました。
『建築家・吉村順三の鞄持ち』

建築家・吉村順三といえば、この方がいなければ今の日本の住宅が違ったものになっていたのではないかと思うほど私たちのような末端の設計者でも、始祖のような存在です。
吉村順三さんに関する本はさほど多くなく、住宅設計を志す際に廃版になった書籍を含め読み漁った記憶がありますが、直弟子さんである藤井章さんが赤裸々に当時の吉村順三さんとの様子を描いている面白い本です。
これまで学んできた事を覆すような発見もありました。
吉村順三といえば、天井を低くし落ち着いた空間を生む設計手法は有名ですが後期には「天井は高くてもいい」とおっしゃっていたり、
サン工房の実例でもありますが、通称「吉村障子」、框と組子と見付寸法が同寸なものをそう呼んでいると思っておりましたが、むしろ吉村事務所でもそれは例外的で、その場にふさわしいプロポーションを考えるのが吉村障子であると。

私たちは様々な設計手法を、様々な情報から集めて引出にしておりますが、その手法を取り込めば、綺麗なものになると思い込みすぎ、
考える事を逆に停止してしまっている可能性があり、真似する事に満足しているのではないかと上記を読み思いました。
なぜ、そのような設計手法ができたのかの本質を理解しないで真似をしても上手くいかないのは明白です。
吉村順三さんのお弟子さん達は、そのDNAは残しつつも各々の考え方や思想のもと昇華させております。
また、こんな言葉も残されております。
「ゆとりとむだ、新しさと珍しさを履き違えている」
これは現代にも痛烈に刺さる言葉です。お客様の大切な資金をお預りして設計する立場からして、ゆとりと評した無駄を創造してはなりません。他にないものを目指し珍しさが際立ってはいけません。
この言葉はデスクの正面に貼っておこうかなと思う背筋の伸びる言葉です。
最後になりますが表題にした「ランニングホームラン」について
吉村順三さんの作品は数々のヒットを飛ばしてきた中でもこれはホームランだな、とお弟子さんの評価する住まいがあったそうですが、一発ホームランでなく実際は最初の基本設計とは全く違い、多くの案を練る中で最終案に至った設計でした。
最初からホームランを狙っていたのではなく、常に設計を粘って、粘って、最後にあっと驚くアイデアに至る。これはランニングホームランであると。

私たちが基本設計する際にもささっとと上手く纏まったからヒットとして良しとするか、または勘違いしてホームランとするか、、実際は一発でホームランを狙える実力などあるわけもなく、
この「粘って粘ってランニングホームランにする」とことん追求する体験が、自らの設計力を上げていく為の筋力になる気がします。
良い建物をつくる本当の志を、この本を読んで半分はショックに感じつつ、半分はやっぱりそうだよね!と思いつつ、顔を少し上げられたような気持になりました。
岡本
