よあけ

夜明けの瞬間をじっくりと感じることは、私の普段の生活では体験する機会が少ないもので(早起きの方、早朝のお仕事、夜勤をされている方などは馴染みのある時間かもしれません)心に残ったことをお話ししたいと思います。

昨年の今頃、建築視察を兼ね京の温所・釜座二条に宿泊した時のことです。
推定築150年の82㎡(≒24.75坪)の京町屋を改修した一棟貸しの宿で、比較的コンパクトな建物になります。

中村好文さんが改修を手がけた建物に宿泊できる貴重な機会でしたので、前日確認できなかったところも記録しようと朝5時くらいから起きて、こだわっって選ばれた道具で珈琲を落としながら、いい香りに包まれたダイニングに座っていると北東にある中庭に少しずつ朝日が入ってくる様子が目に留まりました。
そして中庭の先にある図書コーナーへ意識が向かい、外に出て飛び石を渡ることにしました。(図書コーナーは室内で行き来できません)

上着を着ていても冷える時間、震えながら本を読んでいると、足の先の庭に光がどんどん差し込んできて、なぜだか朝日が特別に感じられました。
朝日を直接見るというより、朝日に照らされる庭と北の背の高い隣地建物にぶつかった光がバウンドして足元に届くのを見ている感じです。

設計するとき、ついつい庭を光を取り込む南側に配置しようとしてしまうけれど、光に照らされた庭を観るのはこの位置関係なのだと理解しました。また図書コーナーが絶妙な高さと位置に配置されていることにもこの時気付きました。
本棚には「よあけ」という絵本がおいてあり、まさにその場所で感じていることが描かれていました。

土間の空間で、なおかつ中庭をみるため戸は解放しているので、外気の中で本を読んでいる状態で、光が差し込んでくるのがとても神々しく感じたのだと思います。
温熱や性能も超えて、この場所で冷たく乾いた空気や薄明りの中で、毎日目の前にあるのに気づかなかった瞬間を特別に感じる時ことができ、建築の与えてくれる心の変化はやはり素晴らしいものだと感じることができました。
またそういったことをキャッチする心の状態を保つことも、日々の生活の中で大切にしていきたいと思います。

京の温所: https://www.kyo-ondokoro.kyoto/index.html
よあけ: ユリー・シュルヴィッツ 作・画 / 瀬田 貞二 訳

山口江梨子

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