東山旧岸邸2

ひと月ほど前、御殿場の東山旧岸邸を訪れました。

設計は昭和期に活躍し近代数寄屋建築を生んだ吉田五十八。
施工は浜松の松韻亭も手掛けられた水澤工務店です。
どちらも、これまでサン工房のブログに度々登場しています。

何十年経過しても素敵な家
東山旧岸邸
現代数寄屋を勉強してきました!!
山口蓬春記念館にて

私も先に書いた2人と変わらず、庭を取り込んだリビングからの眺めに魅了され、写真を撮って帰ってきておりました。

さて、吉田五十八はなぜ数寄屋建築の近代化に取り組んだのか?
古典建築に感銘を受けたことがきっかけとされる、その動機が更に気になり、家に帰ってからも吉田氏の著書『饒舌抄』を楽しく読み進めました。

吉田氏は著書でこう言います。

「住宅は住む宅で、どこまでも見せる宅ではない。だから家人にとつて住みいい家であり、又来る客が長く居られて家人と親しめる家であつて欲しい」

「茶の間は、散らかしても差し支えのない茶の間であってほしい。数寄屋普請は近代性には乏しいが、非常に住みいい日本住宅を作つてみると、数寄屋普請に近いものになる」

「一体建築のプランなどというものは、(中略)先ずその人の本当の生活状態を知ることである」

つまり、家は住みやすさ、親しみやすさが大切であり、日本人には日本らしい住まいが心地よい。
且つ住む人の生活や、世間の暮らしの変化に沿って変化していくべきである、と言うのです。

吉田氏が取り組んだ数寄屋建築の近代化。
そこには、変化する住宅業界への問題意識と、日本人の暮らしをよりよくしたいという想いが、根底にあったのだと思います。

旧岸邸の建設から約50年が経った現代においても、人にとってのよりよい住まいが、この先にまだまだあると思います。

技術の進歩、環境や暮らしの変化に対応しながら、心地よさの本質を忘れず、土地の気候風土に寄り添い、新しい技術や考えを取り入れ、残すべき知恵や技を引き継いでいく。

そのために、住宅に問題意識を持ちそれを解決したいと思い、よりよくしようと毎回頭を悩ませてひとつでも改善を積み重ねる。
そこにわたしたち設計者の役割があると思います。

鈴木孝明