小さな不満と憧れの生活
近頃、お客様の立場に立って物事を考えるには、
自分が家を建てる想定をしてみることが大切なのではないか、と思うようになりました。
実際に考えてみると、今住んでいるアパートの中にも、小さな不満はいくつかあります。
窓が少なく、小さな出窓の先には観葉植物があふれそうになっていたり、
収納が足りず、帰宅後についかばんを床に置いてしまったり、
キッチンが狭く、二人並ぶと動きにくくなってしまったり。
リビングは涼しいのに、廊下に一歩出た瞬間、汗が噴き出してくることもあります。

逆に、「キッチンに窓があれば、ハーブを育ててそのまま料理に使えるのに」とか、
「広い庭があれば、外で思いっきり遊べるのに」といった、
ちょっとした憧れも思い浮かびます。
こうして日常の不便を見つけ、ささやかな理想を思い描くことで、
自然と“住みたい家”のイメージが広がっていきます。

もちろん、暮らし方や趣味、仕事は人それぞれ。
快適に感じる間取りも一人ひとり違います。
だから私たちは、お客様の暮らしを深く理解し、それに沿ったプランを考えるために、
「家づくりの物語」というプロフィールのようなシートを書いていただくことがあります。

中には、「好きな色」「乗っている車」「お酒は飲むか」など、
一見家づくりには関係のなさそうな質問も多くあります。
しかし、それに答えることでお客様自身が自分の暮らしを見つめなおすことができ、
設計士もその人となりを知ることで、生活を具体的に想像しながら、
その方にぴったりのプランを練り上げることができます。
家づくりとは、ただの“箱”をつくるのではなく、
その人らしい「暮らし」を形にすることなのだと、改めて感じています。