多くの選択肢の中で



中古マンションを買って住む人、戸建てに住む人、賃貸に住む人、譲り受けた家や土地に住む人、転勤が多くいろいろな土地に住む人、さまざまな選択肢があります。だからこそ家を建てるか?という問いに、即答できる人ばかりではないと思います。
極論を言えば、雨風と寒さ暑さがしのげて、命が守れればよいのかもしれません。家にかかるお金はどんどん大きくなり、働いたお金の大きな部分が家を買うということで消費されます。もし家を持たなければ、お子さんの教育費や老後の暮らし、少し贅沢な旅行、趣味のもの、日々の生活に使うことができます。
もし、もっと家の寿命が長く、かつ古くなっても価値が衰えず、心地よく、安全であったら、そして地域の人にとってその建物が存在しているとほっとするものであったら、誰かが残したいと思ってくれて、人が入れ替わりながら、長く存在してけたら。住み継いでいけたら家を買うために多くのお金を費やさなくてよくなるのではないかと思います。
家を設計し、「売る」ということだけなら、そのような長く愛されるものが存在してしまえば新築が減り結果私たちの仕事も減るのかもしれません。そんなことよりも少しずつ、価値ある大切にされる入れ物の数が増え、そこで育ったお子さんがいつか大きくなって同じ町にかえってきたら、風景が大きく変わっていなかったら、心安まる、故郷の風景を維持できるのになと思います。
私は実家の周辺を歩くと、ずっと変わらない風景と、田畑の様子、すこし蛇行した農道、小さな水路、竹やぶなど、ほっと心安らぐ場所があり、初めて親元を離れ、生活して帰ってきて見えた風景と、結婚して、兄弟姉妹やその家族と集まる瞬間、変わらない風景に辛い時も苦しい時も、何度も元気付けられてきたと感じます。
価値は人それぞれ、何にお金をかけて大事にするかも人それぞれです。その中で帰ってきたときに迎えてくれる風景が、子供頃の記憶を一気に呼び起こすような、そんな場所を大きく変えたくないなと思うこの気持ちを大事にしていきたいと思います。
イギリスに住んでいた方にこんなお話しを伺いました。
イギリスでは、古い建物の方が価格が高いのよと。歴史的に価値のあるトラディショナルな建物に住まうことができるなんて本当に素敵なこと。壁の石積みは眺めても美しく、休日に庭でいただく食事はどこを見ても美しい風景の中で、近くを流れる小さな川のほとりには愛らしい花が咲いている。でもその花は採ってはいけない、すべてイギリスのものだから。
風景が国のもの、という考えが個々の欲や考えだけで変化しない本当に大事なものとは何か、考えさせてくれるエピソードでした。
様々な選択肢の中で、何を選択しますか?
みなさんは将来どんな場所に帰りたいですか?
そんなことを考えるのも、住む場所をどうするか?に繋がっているのだと思います。

山口江梨子